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川野誠一 (かわのせいいち) 劇団大樹



み群杏子さんの作品を初めて劇団大樹で上演したのは、2005年「ポプコーンの降る街」という作品だった。最初この作品を読んだ時、え、こんな作品を書く人が日本にいるの?と、感動と共に驚きを覚えた。

それは劇団大樹が上演に取り組んで来た、アメリカの劇作家 J.P.シャンリィの世界観に通じるものを感じたからだ。元々は詩人だったシャンリィは、その詩情あふれる優しい眼差しで、都会に暮らす孤独な人々にひそやかに光を当てた…

み群さんの作品を読んだ時、これは和製シャンリィの作品だ、これこそ僕が上演すべきものだと思った。恋に例えるなら、一目惚れ、というやつかな。

その後、み群さんとのメールでのやり取りが始まる。そして劇団大樹のサイトを覗いてくれたのであろう、み群さんから、こんなメールが届いた。

川野さんが私の作品を好いてくれた理由が分かりました。私、シャンリィの「お月さまへようこそ」を読んで、劇作を書いてみたいと思うようになったんです。

このメールを読んだ僕の気持ちが分かるだろうか。例えるなら、恋の過程において、惚れた女が、自分と同じものを好きだと分かった瞬間の甘酸っぱさ。そして図らずも、み群杏子さんは、シャンリィと同じく詩人だったんです。

惹かれるべくして惹かれたのだと分かった瞬間だった。

その後、み群さんは、次々と僕に作品を読ませてくれました。劇作、小説、短編、詩集… これはもう本当に至福の時間でした。でも僕は、み群さんの作品の上演を続けるうち、どうしょうもないジレンマを感じるようになったです。それは僕自身が、み群世界の住人として、何ともミスキャストのように感じ始めたから…

自分以外の配役は、自分が作品の中から汲み取ったイメージでキャスティングするのだから、僕の中で、ミスマッチはありません。しかし、いざ自分をこの世界に放り込もうとすると、放り込むべき場所がなく、頭を抱えてしまう…

そんな思いから、いつかみ群さんに、劇団大樹に新作を書き下ろして欲しいと思うようになった。そこに、僕という、エッセンスを加えて。

それがやっと2015年に実現する。み群杏子、書き下ろし「燈屋うまの骨」だ。

今回の公演は、云わばそのプレ公演に当たる。み群杏子の世界、とタイトルにあるように、本公演に向けて、彼女の世界を感じてもらいたい、僕の大好きな世界を、皆さんにも感じてもらいたい、そんな意図から企画された公演。

今回は、み群杏子さんをゲストとしてお招きし、ステージにも上がってもらいます。公演というよりは、強引な、ファンミーティングに近いかも(笑)

カスタネットの月の上演に始まり、おしゃべりに、セッションと、おもちゃ箱を引っくり返したような公演にしたい、と思う。

大樹初参加、演出の斉藤貴さんには、苦労をお掛けしていますが、相当数のみ群作品に目を通して頂き、今や僕に次ぐみ群通、本当に創造的で頼もしい存在です。

稽古の合間には、み群談義に花が咲き、稽古以上に盛り上がる。こんな座組から生まれる「み群杏子の世界」に、皆様どうかご期待下さい!

そして、来年は、劇団結成20周年に当たる。


大分県出身。1995年、劇団大樹を旗揚げ、主宰として現在に至る。2002年より大蔵流狂言方/眞船道朗を師事、2009年より善竹十郎 (重要無形文化財) を師事し、狂言を学ぶ。2010年、狂言 「蝸牛」 の太郎冠者役で初舞台。多くの古典芸能に興味を持ち、国際演劇協会(ITI)の伝統芸能WSにて 「歌舞伎 」「能 」の課程を修了。最近は、映像の世界にも間口を広げ、父親役/先生役などを演じる機会も多い。全大樹公演を製作。日本俳優連合会員。新劇俳優協会会員。

劇団大樹 主宰/製作総指揮 川野誠一

  http://ameblo.jp/gekidan-taiju/