mimure kyoko
み群杏子 (みむれきょうこ) (星みずく)




劇団大樹結成20周年となる2015年に、私の書き下ろしを上演したいというお話を川野さんから頂いたのは、今からもう二年ほど前になる。

特定の役者さんにあて書きをするというのが私は苦手だ。大阪でりゃんめんにゅーろんという舞台創造集団に所属していた時も、自分が好きなように書いて、そのあとで役にふさわしい役者さんを捜していた。でも劇団大樹さんにはとてもお世話になっている。「ポプコーンの降る街」に始まって「マダムグラッセの家」まで、毎年、私の本を使って下さっている。舞台の完成度も高く、お客様からの期待も年々高くなっている。ここで新作をという要望になんとしても応えなければ。

しかし川野さんへのあて書き… どんな主人公にしたらいいんだろう。実直で、前向きで、曲がり角は直角に曲がっていそうで、女に言い寄られても気が付かなそうで、どこかひょうきんで、おひとよしで、うーん…。じゃあ、川野さんからもっとも遠い人物像って? 不良で、ニヒルで、女たらしで、冷酷…って、いちばん遠いのがハードボイルドか… とまあいろいろ考えて、ハードボイルドだけは避けようと、ゆるい規制で書き始めたのが、この「灯屋・うまの骨」だ。

私は川野さんの顔の魅力は口元だと思う。その口角に、なんともいえないユーモアを感じるのだ。主人公・透馬は、独特のユーモアの精神で世の中を渡っている。川野さんがそういう透馬をどう演じてくれるか、今回、私はそれをとても楽しみにしている。

大樹さんへの書き下ろしということで書き始めた作品だが、書いているうちに、この作品がとても好きになってしまって、大阪でも自分がプロデュースして上演したくなってしまった。その上演日が、大樹公演の前になってしまったことも、大樹オリジナルを考えていた川野さんに申し訳ないと思いつつ、作家としては、同じ作品を違う演出違う役者で、東京と大阪でほとんど同時に上演できるという幸福をかみしめている。

子供の頃から詩や童話を書いていたが、1991年、処女戯曲「恋心のアドレス」が、文化庁舞台芸術創作奨励賞佳作を受賞し“劇作家”として活動を開始する。1992年にも「ポプコーンの降る街」が同賞を連続受賞。その後、Kiss-FM「Story for Two」のレギュラー執筆を担当。言葉のニュアンスを大切にしたポエティックな作風が特徴。生の悲しみおかしみを根底に持つ独特の作品世界を展開。2002年には、初の戯曲集「微熱の箱」が出版される。現在、自作をプロデュースするリーディングユニット「星みずく」を主宰。
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